IGLOO DIARY

源にふれろ#2

12/31/02....伸夫が手品の練習をしている。テーブルの上に手をのせて回すと、テーブルと手のひらの間から白い煙が出てきて、それがやがて人の形になる。「想った人の形になる」と伸夫は言う。

1/1/03....家がコンクリートで改築されている。庭が広くなっていて、雑草が生い茂っている。その草むらで、僕とナツと伸夫がハラを発見する。横たわっているが、死んではいない。リラックスして寝そべっている。腹のあたりが抉れて真っ白になっていて、一見怪我をしているように見えるが、伸夫が手で撫でてみて「これ餅がくっついたんだねえ」と僕らに説明する。

1/2/03....森田君に「皆、小部屋に収まってますから」と言われ、何の事だろうと思いホテルの廊下みたいな所を通ってついて行くと、スズメバチが詰まっているという部屋の前で森田君が立ち止まる。彼の後ろで(ドアを開けるつもりかな)と思い冷や汗が出るが、次の瞬間(ああそうか、やめるよう言えばいいんだ)と思う。また森田君が歩き出したが、何だかついて行くとロクな事がなさそうだと思ってそーっと引き返す。逆方向へ戻って角を曲がると、そこから緩い下り勾配になっていて、子供の頃に行った定山渓のホテルを思い出す。床には赤いベルベットのようなものが敷いてある。スロープを下って行くと大広間へ出る大きな扉があり、(ああ、この中に知り合いが居れば、うまいものが好きなだけ食えるな)などと思う。しかし、自ら進んで入る気になれず躊躇していると、扉が開いて、関さんと大内さんが顔だけ出して「ああ良かった!ここですよ」と叫ぶ。出来るだけ平静を装って「うーん」などと言いながら、扉に滑り込む。その瞬間、背後で森田君がスズメバチの部屋を開けた気配を感じたが、(鍵をかけて裏口から逃げ出せば助かる)と計算する。

1/4/03....見るからに高級っぽいホテルの一室に集まっている。ホワイト・オズワルドという70歳のブルース・シンガーと共演することになり、大勢の演奏者が駆り出されており、僕と山路さんと大野さんもその場に居る。ホワイトはパジャマ姿のままでダブルベッドの上にあぐらをかいてギターを弾いたりワインを飲んだりする。ホワイト・オズワルドには、リー・ウィリーという腹違いの弟が居たが、彼は50年前に若くしてドラッグで命を落とした。リー・ウィリーはハープの達人だったが、電子音楽にも興味があって、シュトックハウゼンとも友達だった。それで、昼はシュトックハウゼンと何時間も音響の実験をして、夜はブルックリンのナイトクラブでホワイトと何時間もブルースのセッションをするというハードな毎日だった。「彼の魂は日を追うごとに分裂していった。あの、忌わしい悪魔の音楽(電子音楽)のせいだ」と、ホワイトは苦々しげに語った。「彼はナイトクラブで白人相手に僕達のトラディショナルミュージックを演奏するのに嫌気がさしていた。しかし当時の現代音楽の世界では、黒人などはタブーだった」とも言った。山路さんが、申し訳なさそうに「あの~、それで今日、私達は、何をすればいいんでしょうか...」と彼に訊くと、ホワイトは真面目な顔で「俺が無心にブルースを唄っているバックで、全員好き勝手に即興演奏をしてくれ。ふたつをひとつに。ひとつをすべてにするために」と言った。それで僕らはすっかり困惑する。大野さんがひとこと「気持ち悪い」と言って部屋を出て行ったので心配になってついて行くと、部屋を出た途端に二人とも車で走行するぐらいのスピードで廊下を駆け抜け、階段を駆け登って一気にホテルの屋上へ出る。そこにウィリー・リーの墓がある。墓は雑誌になっていて、彼の人生に起こった全ての出来事が印刷されている。適当にめくってみると、なぜかサックスを首から下げたウィリー・リーが満面の笑顔でポーズを取っている写真が載っていて、見出しに「ふたつをひとつに。ひとつをすべてに」という彼の発言が大きく書かれていた。

1/5/03....ドトールのトイレにハラが居る。洗面台の中に座っている。小さいな...と思って片手ですくい取るようにして抱くと、すぐに大きくなった。

1/6/03....「流木」という東京のジャズ喫茶で演奏することになり、僕と礼子さんと悦子さんで行くと、長沼町の「ペチカ」という喫茶店によく似ている。店内は狭く、ピアノも何もないので心配になって店主らしき男(コレクトの高橋さんによく似ている)にどうするのか訊くと、「皆さんは絵を描くだけですよね」と言われた。

1/10/03....油絵で描いたような、色とりどりの、LPジャケサイズの肖像画が次々に飛んでくる。UFOのように凄いスピードで飛んでくる。恐怖。それを送りだして来る者の姿は見えないが、明らかに「いいでしょこれ」という得意気な態度を感じる。必死で避けながらも絵を見ると、絵の中の顔はどれも微妙に動いている。それも、生きている人間の顔のように動くのではなく、右目だけ、とか、口と耳だけが小刻みに振動しているような感じで、そういうふうに動くように誰かが仕掛けたものと思われる。レコードに針が落ちる時の「ボツッ」という音が聴こえて、ハルモニウムみたいな単音の持続音が「ぺ~」と流れる。手拍子も聞こえる。

1/12/03....長沼の小学校。整列して予防接種の順番を待っている。保健室の壁にゾウさんが立て掛けてあって、横目でチラチラ見ながら(あれをここで弾いたら、さぞかし気持ちいいだろうな)と思う。記虎君の話に生返事で答えながら、じわり、じわりとギターに近付いて行く。そして、ついにネックに触れる。すると、とつぜん(これは猫だ)という声が聴こえる。構わず弾いてみると、弦は鳴らず、先程の声をサンプリングしたような感じで「猫だ、猫だ」という声が響き渡り、とても恥ずかしくなる。記虎君がその様子を見ながら、他の生徒に「俺はやめろって言ったのにな~」などと話している。

1/13/03....窓枠に沢山並んだ木彫りの人形を見ている。人形はすべて窓の外側へ顔を向けている。(これは関さんがデザインして佳津子さんが彫ったという...でも何故?!)と思っている。その直後、全部の人形がクルッとこちらへ向き直り、かん高い声で「分かったか? おまえ分かったか?」と口々に云う。

1/15/03....「赤い男の子」と「青い男の子」が居る。二人とも、外見はごく普通の子供なのだが、それぞれ、指から赤と青のインクが出るようになっていて、指で書いた文字によってコミュニケーションを取っている。

1/17/03....平岸の部屋に居る。部屋のものは全て盗まれてしまった。その流れで(?)引っ越すことになり、森君と瀧ちゃんに手伝ってもらって部屋の掃除をしたりしている。森君の携帯に誰かから電話が入って、「ごめん、おれちょっと行かなきゃ」と言って去ってしまう。瀧ちゃんは「腹減りましたね」と言って、台所でスパゲティを作る。横から見ていると、ただフライパンでサイバシをクルクル回しているだけなのに、スパゲティがワタアメのようにシュルシュルと現れる。それを見て「これでもう食うには困らないですね」と言うと、瀧ちゃんは手を止めて、真顔で僕を見て「そんな風に葡萄みたいにじっと見るもんじゃないっすよ」と言った。

1/20/03....台所に居たら、ハラがやって来てニャアニャア鳴く。居間で植野さんがサックスを吹いていたので、「それで呼ばれて来たんだね!」と、ナツが興奮して言う。ハラは水を飲んだり、置き物の鳥をジッと見たりしていた。

1/22/03....直径1mほどの丼に山盛りの天麩羅そば。それを制限時間内に食わねばならない。首尾よく食うことができたら、エイベックスからCDを出すことができる。僕と関さんと大野さんと山路さんとハタさんが挑戦する。エイベックスといっても、プロデューサーを指定することができるのが魅力。ハタさんは「私は細野さんにプロデュースされたい」と語る。店内のテレビをふと観るとニュースをやっていて、どうやらこの界隈で暴動が起きたらしい。開けっぱなしになっている僕らの背後のドアの外を、物凄い人数の暴徒が駆け巡っているのが見えて、「いつ襲われるか」と思うと気が気ではない。関さんに「やばいですよ、ほら」と言うと、関さんは真顔で「これ、ドッキリでしょ、多分」と言う。

1/25/03....猫が人の服を着てニ本足で歩いている。古い友達を探すような気分で、猫の群れのなかでハラを探すが、猫たちがどんどん人間っぽくなっていくので誰がハラなのか分からなくなってしまった。

1/26/03....テレビで観たことのある、タレントの豪邸の応接間で庄司君と一緒にソファに座って、ミニコンポで庄司君が作ったというテープを聴いている。「誰に聴かせても誉めてくれないんですよ」と庄司君は笑う。確かに、えんえん深いエコーのかかった持続音が鳴っているだけで、音質もモコモコしていて何だかよく分からない。庄司君は何かを察知したのか、コンポの何かのスイッチをポンと押す。するとエコーがカットされて、ただのぼんやりした持続音だったものが「gratitude」っぽいメロディーになった。「これが本来の曲なんですけど、わざとエコーで分からなくしたんです」と庄司君は語った。

1/28/03....山路さんが、「家のポストにこれが入ってたんですけど」と言って僕に大きな茶封筒をくれた。ヒッピーの人が経営している自然素材のおもちゃ屋の片隅にお茶を飲めるスペースがあって、そこで山路さんとお茶している。渡された封筒にはコンピューターで印刷したような紙の束が入っていて、それはyumboのジャケの数十種類もの見本であった。

2/4/03....山路さんが車を買い替えたので乗せてもらう。車の中は畳が敷いてあって、普通に家具もある。テレビがあったのでつけようとすると、山路さんに「運転中は危ないので、見るのなら停車します」と言われる。「いや見ないよ」と言うと、「でもテレビがあるのがミソだから」と言われる。

2/6/03....アスファルトに白っぽい渦巻きのような模様が浮き出ていて、その白い部分を踏むと口の中で甘い味がするという話を聞く。ナツが「試す」と言うので心配になりついて行くが、混雑したイベント会場の中で見失ってしまう。会場では小さな木彫りの人形を沢山並べて売っているブースがあり、僕の知り合いが大勢そこで働いているような気がしたので、注意してスタッフの顔を一人一人見ていくが、皆知らない人ばかりだ。

2/7/03....父が「詩を書いた」といって持って来るが、それを読むとろくな事にならないような気がして無視している。父は詩の紙をペラペラさせて持ち歩いていて、僕と行動を共にする。武田さんの家へ行くことになり、多田サービスで使っていた4トントラックを僕が運転し、父が助手席に乗る。カセットからマヘルが流れる(しかし曲はどう考えても近藤真彦だった)と、父は「そうか、これが浩次の曲か」と言うので「そうだよ」と嘘をつく。僕はしきりに(武田さんの家にまでついてくるのは嫌だなあ)などと思っている。いつの間にか、広い会議室のような部屋に居て、ユニマットのコーヒーを飲みながら、一人で父の詩を読んでいる。「分裂する果実」という題だったが、あとはすべて文字化けしていて、PCの画面のリンクの文字みたいに全部青い文字になっていて下線が引いてある。「コンピュータに取り込んでクリックするとちゃんと読める」という注意書きが添えられているのを見て、「そうか、あんな事言ってたけどマヘル好きなんだな」と、なぜか思う。

2/10/03....見知らぬ人達と芋掘りをしている。その畑の芋は「馬鈴薯」だというが、すべての芋が真っ白な澱粉の粉で覆われていて、「直接さわると毒が身体にまわる」と教えられて、みな手袋をはめている。しかし僕は教えられる前に素手で触ってしまった。ああ。毒が。

2/13/03....ビニールにパックされた「のびる歌」という商品を買う。その商品の開発には大月さんが関係しているらしい。

2/16/03....壁の薄い集合住宅に居る。爺さんは風邪をひいていて、ドロップスを2階から取って来てほしいと言う。2階へ行くためには、隣室で寝ている親子の枕元を通って行かなければならない。山路さんが2階に居る筈だが、確信が持てない。なんとか2階へ上がると、廊下が以前より狭まっていて、各室の扉は撤去されていた。(とにかくドロップスの缶を見つければいいんだ)と思いながら、戸口に立って部屋を覗いて行く。どの部屋からも異臭が漂い、麻薬中毒患者が居るとしか思えない。(こりゃあ、山路さんは帰ったんだろうな)と思う。爺さんがすっかり耄碌してしまったから、住人は隣室の親子以外は全員出払って、いつの間にかジャンキーが不法占拠してしまったのだ。そうとは知らず万年床で「ドロップスを」などと言っている爺さんが、急に不憫になった。

2/17/03....とあるコンクリートの壁のなかに、すべて埋め込まれているという確信がある。例えば、太古の人々の生活を記した文書であるとか、幻の名画であるとか、食べ物が永久に腐らない方法が書いた紙など。その壁のある場所を目指して、僕・関さん・生田ちゃん(もう一人居たが失念)というメンバーで車を走らせている。運転は僕である。しばらく運転していないのに、プロのドライヴァーのように華麗に運転してみせ、関さんに「澁谷さん、運転うまいじゃないですか」と言われる。僕は格好をつけて、聞こえないふりをする。生田ちゃんが途中で窓の外を指して「あーっ、あのグラス博物館に行きたいんですけどお」と言い出す。困ったなあ...という空気が流れるが、どうやらそこに壁の「一部」があるらしいという事になり、グラス博物館へ立ち寄る。グラスが展示されているのかと思ったら、そこは魚市場のような開放的な広いスペースで、湿ってふにゃふにゃになった段ボール箱がそちこちに散らばっていたりして荒涼とした印象を受ける。関さんと生田ちゃんは興味深げに段ボールを1つ1つ点検し始めたが、僕はなぜか「どれか1つが爆発する」という予感がして、遠くから二人の様子を見ていた。

2/19/03....病院の大部屋の、たくさん並んでいるうちの1つのベッドに寝ている。他にも大勢の人が居て、各自、ベッドを「家」に見立てて、そこに住んでいるような感覚がある。15才ぐらいの見知らぬ女の子がやってきて、「もうこんな暮らしは嫌なんです。でもお金が無いから...」と僕に言う。

2/20/03....子供の顔写真が大量に掲載された分厚い雑誌を、安ホテルのロビーで眺めている。そこに載っている子供は皆、行方不明だという。中には、写真の中で生きている子も居て、なにか喋っているようだが聞き取れない。(写真のなかで生きているということは、もう死んでしまったということかな)などと思う。

2/21/03....ソフビ人形の工場を経営している夫婦の家に招かれ、何人かで食事している。ナツ、小岩さん、山路さん、勝部さん、林さんが一緒に居る。林さんはすっかり昔の様子に戻っていて、にこやかに皆と談笑している。旦那さんがデザインした自動車がヒットして、生活が安定した、などと言っている。林さんはやたら車に詳しくなっていた。途中、勝部さんが席を立って、僕を部屋の隅に呼ぶので行くと、小声で「きっかり1時間後に図書館で待ってるからね」と言われる。その僕らの様子を、山路さんが汚いものでも見るようにジーッと見ていて、「やばいなあ」と焦る。

2/24/03....馬の毛を植物のように育てることができるようになった。しかし実はそのような知識は一例に過ぎず、「アンデパンダンサイエンス」という辞書には1000項目以上の知識が網羅されている。僕は、むかしちょっとだけバイト先で一緒だった女の子(名前は失念)と、「ゴダールのリア王」に出てくるホテルにそっくりな部屋に居て、辞書を開き、「今すぐにでも、誰にでも実行できる魔法」という項目を見つけて興奮している。二人で一枚の毛布にくるまっている。ふと我に返り、ナツへの罪悪感に襲われる。そして、このあとどうやって毛布から、さらには部屋からうまく抜け出すかを思案する。(そんな魔法が載っていれば最高だ)と、辞書に目を通すが、めくってもめくってもアメコミ調の漫画しか載っていない。巨大な蜘蛛が摩天楼を闊歩していて、足音の擬音なのか、「TWAANG! TWAANG!」と、太いロゴで書いてある。

2/26/03....癌で亡くなったおばさんの家に居る。おばさんは元気で、こけしを集めている、といって大きなトランクを持って来る。開くと、こけしが入っているのかと思ったら、古い雑誌がたくさん詰まっていた。しかも、どれもアングラな感じの、猟奇的な雰囲気の表紙ばかりである。不審に思い、トランクの蓋を見ると、「A・B・Thurman」という名前が印刷されていた。これはおばさんの持ち物ではないらしい。しかしおばさんは平然として「まあ別にいいわ。これをこけしだと思って仕舞っておくから」と言う。しかし、自分が精魂込めて集めたコレクションを、そんなに簡単に諦められるものだろうか、などと思う。おばさんが出してくれた紅茶のカップには、ステンドグラスのような模様が入っていた。

2/28/03....ブルドーザーが通って行ったあとの土にキャタピラの跡がついて、ギザギザに盛り上がっている。その土の隆起の上に乗ってみると、グランドキャニオンに居るような錯覚に陥ることが分かり、非常に興奮する。広大な、キャタピラのギザギザだらけの土地で独り興奮し、「これからは好きなように大きくなったり小さくなったりできる!」などと叫んでいる。

3/3/03....植野さんと、高級そうなレストランに居る。何かを注文するでもなく、自分達の家のようにそこで普通に生活している。植野さんは笑いながら「結局、こういうやり方だと家賃かからないから」と言う。なるほどなあ、と感心する。

3/5/03....畳の上で、見知らぬ中年男性と相対している。彼は自分を「フィリップ・ガレルです」と自己紹介したが、どう見ても日本人なので、うさん臭くなる。なにごとか会話したなかで、彼が「わたしのする事は、ぜんぶ誰かの餌になってるんです」と言ったのが印象的だった。

3/7/03....「オープンエリア」と呼ばれているアパートに何人かで暮らしている。流し台が共同なので、他の住人と顔を合わせることが多い。6畳一間なのに、無理矢理自室で喫茶店を営んでいる人もいて、その喫茶店のマスターが、いつも共同の流し台に大量の野菜くずを棄てるので、「小森さん」という人が怒ってマスターを殺す、という噂が流れる。血を見るのは嫌なので、僕は騒動が治まるまで部屋にこもっていようと考える。

3/10/03....ナツが、「陸橋に住めば安い」と言い出し、高所恐怖症なので戸惑う。なんとかして説得し諦めさせようとするが、ナツはなにやらベルトコンベアーの流れ作業みたいな仕事をしていて取りつくしまがない。

3/12/03....山路さんは血の滲むような努力をしてギターをマスターした。yumboの新曲の打ち合わせの場で、練習の成果を見せるというので弾き始める。ECMっぽい音。ギターの音とは思えない。シンセサイザーのように聴こえる。訝しそうにしていたら、山路さんは鋭い感じで「バイオリンとトイピアノを混ぜるんです。そうすればアタックは強いけどだらしなく音が伸びるでしょ? あとはベースと手拍子でリズムを支えればいいんです」と言う。その場では納得したが、後で考えたらそれがギターの音とどういう関係があるのかが全く分からなかった。

3/13/03....テレビに写っている猫を見ていたら、字幕で「ピートは後ろ向きにしか歩けない病気である」と出る。へえ、そんな猫の病気があるんだ、と思う。その猫は足が10本あって、ふだんは4本しか使っていないが、残りの6本はうまく体に密着させているので、少し太っているように見える。テレビ画面の中で「ニャー」と鳴く猫。

3/15/03....世の中がアニメになって、人間の身体も急速に進化を遂げた。実は人間には「第三の腎臓」なる器官が備わっていて、アニメとなることによってその機能が活用されるようになった。目からビームが出たり、胸の蓋がパカッとひらいて武器が取り出せたりするようになる。しかしそれも完全な進化ではなかったらしく、最後には指がすべてボロボロと崩れて落ちてしまう。

3/17/03....何かの取り引きにチョコレートを使っていて、粉々に割ればいくらでも取り引きできるというので興奮する。

3/20/03....長老の家にはドロッとした苔だらけの水槽がある。ハラにそっくりの猫が居たが、手足が金魚のヒレのようになっているので気味が悪くて抱けない。長老のパーティーが開かれることになり、「大広間」へ行くと、そこは体育館である。ナツと戸田君しか知り合いが居ないので、出来るだけ二人から離れないように過ごす。粉末ジュースみたいな飲み物を手に、食傷気味の気分が続く。

3/22/03....ゲイリー・ニューマンがやって来て、ステージで彼が乗っていたカートを僕に売りたいという。WAVEと提携してレーベルを立ち上げるので、資金が必要なのだという。ぜんぜん欲しくないのに、どうしようか迷ったフリをする。

3/25/03....時計の文字盤が真っ黒なのに、時間が分かる。「そういう能力があれば、当然出世できる」という女の声のナレーションが聞こえるが、それは黒い時計に内蔵されたテープの声らしいと気付き、「商売が上手いなあ」と思った。

3/28/03....ソファに黒光りするブロンズのオブジェがあって、見ると横臥した仏像のようだが、デザインのディテイルをしっかりと判別できない。でも直感的に、その物体がハラであることを僕は知っている。山口さんが家に来ることになっていたので、「山口さんが来るまでハラと話ができるけど、来たらただの物体に戻ってしまって、そのまま永久に話せなくなるかもしれない」などと思って焦っている。僕はオブジェに背を向けて、流し台で洗い物をするが、洗っていた自分の家の茶碗や皿を、売り物のように錯覚して、どれを買うか選んだりしている。背後からハラの声がする。それで、「ああなんだやっぱり猫か。言葉なんて元々話せないんだっけ」と思った。

3/30/03....森君の家は実は広い。行くと、大勢の知り合いが集まってパーティーを開いていた。森君本人の姿は無いが、そこは彼の家ということになっている。部屋は数えきれないほどあるが、それらは「空間」ではなく、「カード」なんです、と山路さんに説明される。「部屋のカタログ」というノートを渡され、見ると色とりどりのカードの図版が並んでいて、すべてが「部屋」であるらしい。あるカード(どのような絵柄かは忘れた)をジッと見ていたら、徐々にカードが光ってきて、目が離せなくなる。さらに根気よく見ていたら、一瞬にしてノートがサイコロほどの大きさに縮まってしまった。

4/2/03....泥の温泉があって、なぜか僕だけが入るように言われる。ナツと山路さんと、あと知らない女の人(川上ゆきえという名前だった)に、「入れ!入れ!」と囃したてられる。仕方なく足先を入れると、チクリと刺すような痛みが走り、恐れてなかなかそれ以上は入れない。皆に訴えるが、「泥に足をつけただけで痛いわけがない」と笑って取り合ってくれない。また、「痛く感じるのは熱いせいだ」とも言われる。僕はなぜか、「入ったら犬になってしまう」などと、自分でも意味が分からないことを言って免れようとする。


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